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要旨 (Professor Niko Besnier)

 グローバル現象に面する「言語」―言語実践、主体性、ローカル社会の複雑性に着目した考察―】

要旨

過去10年のあいだ、世界で続くグローバル化の波が言語実践に及ぼす影響について、社会言語学者からますます多くの関心が寄せられている。そういった問いかけに対する研究は、スピーチ・コミュニティというものを単一体として扱う傾向があり、例えば英語のような覇権的言語の増大する権勢を通じて、言語使用の推移が全ての人に一様に影響するかのように見なしてきた。加えて、そのようなテーマに取り組む研究は総じて、世界の周辺にある小規模社会をグローバル化の影響を否応なく被る脆弱な甘受者の代表と考え、言語的実践が世界的な力学といかに闊達に向き合うかよりも、グローバル化と言語の関係を前者が後者の実践に一方的に作用する(例えば、少数話者言語の存亡を危うくするといった)過程であるかのように捉えてきた。

本発表は、言語のグローバル化とグローバル化における言語の役割に対してより示唆的なアプローチを称揚するものである。そこで、非常に伝統的で世界の他の地域と複雑につながる太平洋の小規模な島社会−トンガ王国の民族誌的・言語学的なデータの分析にもとづき、世界語である英語の新たな言語使用が、その使用者の間に不均衡に分配されていることを例証する。英語とトンガ語の言語交替が、この日常生活の複雑な間主観的交渉場面における対象なのだが、そこにおいては個人の言語能力は実は驚くほど小さな役割しか果たしていない。言語実践(コード・スイッチング、アクセント、文法など)は新旧両面における社会の不均衡へと移しかえられ、地域の権力構造と微妙に絡み合って、地域的なるものはグローバルなるものに晒されることで複雑な意匠をまとう。

こういった様々な資料が示すのは、世界の周辺にある小規模社会も、刻々変化する言語的・相互行為的なレパートリーと活発に交流しているという事実である。世界的な動向と言語実践の関係は双方向的過程である。つまり、グローバル化は間違いなく言語実践に影響を及ぼすが、そういった言語使用者もまた、世界への地域的な関連を定義し、批判するためにそのような言語実践を行っている。さらに抽象的なレベルにおいては、グローバル化は地域に横たわる社会・経済的な不均衡を再生産すると同時に、新たにそれを生み出してもいるのだ。その社会的コンテクストにおける自然なコミュニケーションを分析することが、大小様々な規模の社会の構成員すべてに関わるグローバル化の作用を解きほぐす重要な糸口となることを示す。

                    言語科学会 (Japanese Society for Language Sciences)